音声認識エアコン 大阪弁は認識するが、一部の博多弁は無理

2011年11月、新型ルームエアコンとして発売された東芝『大清快VOiCE』。「世界初! 声で動くエアコン」と鳴り物入りで発表されたが、いったいどんな操作感覚なのか。作家で五感生活研究所の山下柚実氏が報告する。

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世の中見回せば、すでにカーナビやPCに音声認識技術は導入されている。しかし、白物家電になかなか導入できなかったのはなぜでしょう? 開発を担当した東芝ホームアプライアンスのエアコン商品企画担当グループ長・枦山智(はぜやまさと)さんは、「家電に使うのは、ハードルが高いんですよ」。

そして、枦山さんはこう続けた。「家庭の中にはいろいろな年齢や性別の人がいますよね。そういった何種類もの声を、正確に認識するのは結構難しい。私たちは東京と大阪で20〜60代の男女320人の声を録音し、いろいろな言葉の中から認識率が高い26種類を選び出しました。さらに90%以上の確率で認識できるように、細かくチューニングを重ねたんです」

たとえば「暑い」。標準語では「つ」が、大阪弁では「あ」が強く発音される。大阪弁のアクセントでも認識してくれるんですか?

「はい。大丈夫です。でも、博多弁だと難しいですね」

ボイスコントローラは「あ・つ・い」の3つの音を記憶している。だから、アクセントが違っても認識可能。だが、博多弁の「あつかぁ」は認識不可、というわけだ。

では、音声を認識できなかった時はどうなるか。当初はボイスコントローラの上部に赤ランプを点灯させていたそうだが、その案は途中で却下された。

「人が声で指示した時に、いきなり赤ランプが点くと、ぶっきらぼうで機械に拒絶された感じがするはずです。そこで『トゥルル』と、戸惑うような電子音が返ってくるデザインに変更しました。これなら不快感が少ないですよね。こうした人と製品とのインターフェイス上の試行錯誤を、何回も繰り返しました」

音声認識技術を、家庭の中で使い勝手の良いものにするには生みの苦しみがあった、と枦山さんは振り返った。

これまで東芝では省エネ技術や音声認識技術の研究を重ねてきた。すでに機械としての設計品質は高水準に達している。でも、それが本当に人にとって使いやすいものなのかどうか。

「その点こそ、差別化のポイントになるのではないでしょうか」(枦山さん)