「絶対便利じゃないですか」――本の内容まとめて公開「ブクペ」の狙いと“著作権”

誰かが2000字以内で要約した“本のまとめ”を無料で読める――そんな“ソーシャルリーディング”サイト「ブクペ」が静かな人気を呼んでいる。まとめの数は、2月1日現在で約2500件。月間20万人のユニークユーザーが、日々増えるまとめを読みにサイトを訪れているという。

まとめられている本の種類は実用書から漫画までさまざまだ。特にビジネス書の人気が高く、中には10万PV以上読まれているまとめもある。ユーザーは気に入ったまとめをソーシャルメディア上で共有でき、人気のまとめには1000以上のツイートや5000以上のはてなブックマークが付いている。

 「だって絶対便利じゃないですか」――こう話すのは、運営元であるブクペの社長、鳥羽悠史さん(28)。鳥羽さんは転職活動中に「要点を抜き出しながら本を読む」という読書法に出合い、「自分以外の人のまとめも読んでみたい」「いろいろな本のまとめをネット上で読めたら絶対便利」という思いで2011年2月に運営会社を起業。同年4月、一念発起でブクペを立ち上げた。

 現在の月間アクセス数は約50万PVと、目標としている1000万PVにはまだ遠い。だが「本の需要は絶対になくならない。時間はかかるかもしれないが、うまくプラットフォーム化すれば必ず収益化できる目算がある」と鳥羽さんは自信を見せる。

●読者とまとめ作成者の両者にメリットを

 鳥羽さんによれば、ブクペには2通りの使い方があるという。まずは未読の本の内容をブクペで確認するというパターン。もう1つは、実際に本を読んだ後にまとめを読むというパターンだ。「自分が読んだ本について『他の人はこういうふうに思ったんだ』とか『自分が注目しなかった部分に注目している』とか、そこを見るのが実はすごく楽しい」

 まとめにはAmazon楽天アフィリエイトリンクが張られており、ユーザーはまとめを見て気になった本を即座に注文できるようになっている。「まとめ経由で200〜300冊ほど本が売れることもある」と鳥羽さん。ユーザーの利便を図るとともに、こうしたアフィリエイト収入がブクペの主な収益源になっているという。

 また、まとめ作成者にもメリットがあるという。ユーザーはTwitterアカウントやメールアドレスでログインしてまとめを投稿すれば、閲覧数や総投稿数などに応じてアフィリエイト収入の5〜7割を得られる仕組みだ。送金には楽天の「かんたん振込(メルマネ)」を使用している。

 「例えば1つのまとめが1万PVほど閲覧されれば、作成者はだいたい500〜1000円ほどもらえると思う。まとめ経由で300冊くらい本が売れた時は、1万円ほど払ったこともある」と鳥羽さん。こうしたインセンティブ機能でまとめ制作者のモチベーション向上につなげている。

●著者、出版社とは「良い関係」

 購入しなくても本の中身が分かってしまう――こうしたブクペのコンセプトに対し、オープン当初から「大きな反響があった」と鳥羽さんは振り返る。本という著作物を使ったサービスであるため、「便利だ」という声と問題視する声の賛否両論があったという。

 実際、2011年9月18日に公開された「メール文章力の基本 大切だけど、だれも教えてくれない77のルール(日本実業出版社)のまとめ」という記事に対しては「まとめの域を超えている」といったコメントが多数寄せられ、作成者が公開2日後に記事を修正するという騒ぎも起きた。

 修正した記事中で、まとめ作成者は「(著者の藤田英時さんに連絡をとった)結果、『本書の内容を伝えてくださるのはありがたいのですが、やはり、まとめの域を超えていると思います。ポイントをしぼっての紹介は結構ですのでその程度に止めておいてください』というご返事をいただき、元の記事を修正するに至りました」と書いている。

 だが鳥羽さんによると、本の著者や出版社などから「うちの本をまとめないでください」という直接的なクレームが寄せられたことはないという。

 「ブクペ経由で本が200冊や300冊売れることもあるので、著者や出版社とは仲良くさせてもらっている。そればかりか、著者や出版社からまとめを提供してもらうこともある。これが例えば2年前なら危ないビジネスだったと思うが、今は著者や出版社自体がメディア力を持っていないと本が売れない時代なので、まとめを容認してもらっている部分や、むしろ歓迎されている感じすらある」

ステマ騒ぎも電子書籍も「追い風」

 年明けから世間を賑わしているステルスマーケティングステマ)騒動に関しては、「うちにとってはむしろ追い風だと思っている」と鳥羽さんは話す。

 「ブクペは“レビューサイト”ではない。本の内容しか書いていないので、悪いものをよく見せようがないし“サクラ”も出にくいはず。また、『この本が良い』『この本が悪い』といった感想だけのまとめはうちでは全然読まれないので、信頼性という部分では問題ない」

 また、今後の普及が見込まれる電子書籍も同サービスの「追い風」になるとみる。

 「今後はどこの電子書籍プラットフォームでも商品数が充実してくると思う。その結果、1冊当たりのプロモーションの機会が減少し、トップページにある本や話題性のある本しか売れにくくなってしまうはず。そこで、ブクペがプロモーションの部分で力を持てれば、今後は電子書籍事業者ともいろいろな形で協業していけると考えている」

●“立ち読み”のプラットフォームへ

 ブクペの当面の目標はユーザー数の拡大だ。現在のアクセス数は月間約50万PVだが、黒字化のためには「1000万PVを超えないとかなりきつい」というのが本音だ。

 そこで1月、認知度向上のため、ブクペと連携する本のニュースサイト「ビーカイブ」をオープン。ブクペの投稿内容を編集した“本のまとめのまとめ”ともいえる記事を、1日に2本ずつ公開している。こうした記事をYahoo!やmixiなどの大手サイトに配信することで、ブクペの認知度アップやPV増加につなげていきたい考えだ。

 また今後は、ECサイト事業者や電子書籍プラットフォーム事業者と協業した新ビジネスも検討していく。具体的には、ブクペのAPIを有償提供し、ブクペ内のまとめコンテンツを外部のECサイト電子書籍プラットフォームに配信していく――といったビジネスモデルを考えているという。

 「本屋さんって元々、立ち読みとか全部自由じゃないですか」と鳥羽さんは笑う。ネットで本や電子書籍を購入する機会が増えた今、ブクペはWeb上の“立ち読みプラットフォーム”を目指していく。